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将棋侍と初雪


早くも冬になったかのような寒さに、ぞくっとした。しばらくぶりに、旅から帰って来たのたが、まだ夢の中にいるような、ふわふわした感覚が芯に残っている。

思えば、旅立ちのあの日。なぜか懐かしい海坂藩に戻れるのではないかという気がして、一条戻り橋のたもとに足を向けたのだが…

気がつくと、同じ場所だった。拙者は、やはり戻ることができないのか。
さらに気が重くなったが、不意に異変に気づいた。

町の真ん中に電車が走っている。
歩いている人の服装もなんだか地味に思える。
見慣れまた町並みも少し違うようだ。

背後に視線を感じて振り返った。
13歳ぐらいの少年がじっとこちらを見ていた。
みすぼらしい感じの身なりをしている。

「なんか変なおじさんやなぁ」と少年が声をかけてきた。
「どっから来たん?」と言う声をさえぎるように言った。
「今はいったい何年なんだ?」
「けったいなこと言うんやね。昭和35年決まってるやんか」

全てを理解した。時を50年ほど遡ったようだ。
少し話しをして少年と別れ、町を歩いてみた。
行き交う人たちの表情も、心なしかのんびりしているように思えるが。

この時代の京の都をもっと知りたくなり、書店に入ってみることにした。

古びた書店の中から、不意に大きな声がした。店主のようだ。

「万引きは泥棒やぞ!」
目を向けると先ほどの少年がうつむいて立ちつくしている。

「返しなさい!」そう言って店主が本をとりあげた。
和英辞典のようだ。

しばらくその本を見ていた店主は、少年に言った。

「よしわかった。この本は君に売ってあげる。代金は、君が大人になった時にもらうことにする」

ああ、こんな時代もあったのだ!

不意に目頭が熱くなった。
細かな雪が、まつ毛に触れて溶けていた。

飼い猫の「座無座」が、懐から顔を見せ、不思議そうに拙者を見つめているが…

 

(2015年11月28日(土) 8:45)

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