私事で申し訳ありませんが、2017/3/10に、昨年書き上げた「人生はボンクラ映画」という小説をリリースしました。
自分の体験をもとに作品を書くという演習の実例みたいな作品で、私がうつで退職してから快方に向かうまでの心の軌跡を描いています(かっこよく言えば)。
そのきっかけとなったコールセンターでの苦情対応業務の様子や、そこで出会った面白い連中、電話の向こうのクレーマーのみなさん等、笑えるエピソードも満載。
人生はボンクラ映画
著者等: 西森元 (←ペンネーム)
ASIN: B06XGMZGL1
Amazonのkindleストアにて、3/14(太平洋標準時)まで無料ダウンロードができますので、ぜひお読みください。
内容紹介
「今から録音を流します」
手元のノートパソコンのマウスをクリックした。
「ばかやろー!、上司を出せ!」
静かな部屋に大音量の罵声が響きわたった。西本の両隣の二人がびくっと震えるのがわかった。当然、西本もびっくりしている。びっくりさせるための音量でもあった。
罵声の合間に、恐縮したような「はい、はい」という相づちの声が聞こえてくる。情けない声だった。
若い男はマウスをクリックして音声を停めた。そして西本たちを見渡すと言い放った。
「みなさんが担当する電話は、このような電話です。この録音を聞いて、自分には無理だと感じた方は、ご遠慮なくお帰りください。無理に残られてもお互いの時間の無駄ですから」
なるほど、これで人数を絞るのか、びくついて帰るような奴はお呼びでないと言うことなのだな、そう感じたとたん、西本の胸に「バカにしやがって」という怒りが湧いてきた。絶対に帰るものかと決めた。若い男の口調にも腹が立った。その口調の裏に「選ぶもの」の優越感を感じとったからだ。
その時、左隣の四十男が「自分には無理だと思います」と言って立ち上がった。室内の全員に軽く会釈をすると、背を丸め、試合に負けた敗残者のように部屋を出ていった。
ますます腹が立った。採用しないのはかまわないが、敗北感を抱かせて帰らせるなんて、どれほど上から目線なんだと思った。
西本が二十八年勤めた東海エージェンシーを辞めたのは東日本大震災の年だった。うつ病の休職開けから三年目の春だ。
すっかり世捨て人になった西本はハローワークで五十代求職者の厳しい現実に直面する。
ようやくバイク便のライダーとして働き始めるのだが、そこは西本同様に心に傷を負った連中が集まっていた。
やがて退職金も使い果たし、妻に懇願されて派遣社員として再就職に成功するのだが、そこは、メーカーの苦情電話担当という、とんでもない戦場だったのだ。
漫画家くずれの元ライバルメーカー社員、音楽事務所社長、テレビタレントなど、奇妙な派遣相談員たちとの交流と、全国から電話をかけてくるクレーマーとの会話など、多くの出会いが西本の心を開いていく。
「うつで会社を辞めざるを得なかった」のではなく、「うつのおかげで会社を辞めるきっかけができたのだ」
うつ病高齢者・西本のうつを抜けていく心の軌跡を、爆笑のエピソードで描く。
人生なんて「なんとかなる」、そんな気持ちでこの作品を読み終えてもらえれば、作者冥利につきる。
(2017年3月12日(日) 23:27)