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志賀直哉の「雨蛙」を読んで

 今回は、作品の感想文を書いてみた。文豪・志賀直哉の「雨蛙」という作品である。ストーリーは、文学趣味の若い亭主・賛次郎がその興味のない妻に文学趣味の会合に参加させて、不良作家からひどい目に遭わされて後悔する話である。興味がある方はどんな図書館にもあるのでお読みいただきたい。

 賛次郎にとって文学趣味は、家を継ぐために都会に残してきた高等遊民(労働せずに文化芸術に耽るインテリ)としての生活を象徴している。
 健康で美しい妻せきの唯一の欠点が、この文化芸術、特に文学趣味に対する興味がないことで、彼はそれを「目に光がない」と言って不満を持っている。
 都会から来た作家を囲む地方文芸の集いにせきを参加させることで、結果として妻につらい体験をさせて夫婦の距離さえも遠ざけてしまう話である。

 作者の描写を読むだけで、一見愚鈍なせきと、インテリの女教師山崎の対比は明らかで、作者がどちらの女性を好ましく思っているかまで判る。
 作家連中の描写にも、「文学をやっている」事に対する夜郎自大なプライドを感じさせる。
 賛次郎や、山崎女史の軽薄さは、文学趣味をもってプライドとする浅はかな地方文壇の世界を象徴し、一方、「目に光のない」と思っていた妻せきの本当の可愛さは、二人で過ごす慎ましやかな自分の世界を象徴している。

 傷ついた妻を連れて帰る途上、雨蛙の夫婦を見て、地に足の着いた慎ましい日常の大切さに気づいた賛次郎は、いつもの村が久しく見なかったように新鮮で大切に映る。それに気づいたからこそ、書棚の中の小説と戯曲を焼き捨てたのである。

 志賀直哉には、作品ではなく作家であることにこだわる軽薄な文人たちや、彼らの一般人に対する上から目線に対する反感があったのかもしれない。そんな想像をした。

 その上で、ネットに散見する感想や分析を読んでみたが、この文学趣味の地方文化人たちの軽薄さや高等遊民の浅はかさにふれる感想がなく、優柔不断な夫や愚鈍な妻に関する感想ばかりで驚いた。

 おそらく、文学趣味の人たちは、自分の恥部を指摘されたような気恥ずかしさを感じたのではないか。

 私は、当然、自分自身のそんな気恥ずかしさを感じたし、そういった地方文人のかっこわるさも自認している。それを正面から語れるか、隠そうとするかの違いが、小説を「書く人」と「読む人」の違いであろうと思った。

 

(2016年10月5日(水) 12:20)

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