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読者の脳裏にイメージを刻む

 以前から「説明するな描写せよ」と言っていますが、それが何故なのかを考えてみた。
 これは、言い換えれば「説明と描写のさじ加減」ということである。
 「説明」の長所は、複雑なことをわかりやすく短く伝えることができること。同時に、登場人物の感情などを廃することができることである。

 逆に短所は、読者の脳を素通りしやすいことである。

 例を上げてみよう。

 主人公は高所恐怖症である。物語のクライマックスでミッションをコンプリートするため彼は否応なく高所に行ざるを得なくなる。
 その特に、「高所恐怖症」であるという事実の読者への提示が、物語の前段で、「彼は高いところが苦手であった」という説明だけであったなら、読者はそれを忘れてしまうかもしれないしラストの盛り上がりも低い。
 そこで、作家は物語の前段で、以下のようなシーンを描写するのである。

 塔の最上階にエレベーターが到着した。展望台である。扉が開くと同時に子供たちが歓声を上げて展望窓の方に飛び出していく。「こらこら走るな」という父親の声がする。
 隆は一番最後にエレベーターを降りると、入り口近くの壁にもたれ、「ここにいるから見てくるといいよ」と言って動こうとしなかった。
 顔が青ざめうっすらと冷や汗をかいているようだった。声も震えている。
 「大丈夫?」

 このような描写を入れておくと、読者の脳裏に、彼は高いところが苦手なのだというイメージが刻まれる。クライマックスにいたって、彼の最後の戦いが高所だと暗示されるだけでサスペンスが増す仕組みだ。ちなみに高所恐怖症を使うのは、ヒッチコックが映画「めまい」でやった手法でいわば定番で、ミッションをクリアすると同時に主人公は恐怖症(または過去のトラウマ)を克服できたというお約束である。

 描写とは、読者の脳裏に「イメージで刻む」ことである。「言葉」は心を素通りしやすいが「映像」は心に残るのである。

 

(2016年5月18日(水) 18:57)

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