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キャラクターに説明させない

 今回は作品の中でやってはいけないことの話。

 シナリオなどを勉強すると習うのが「聞いたか坊主」ということ。これは歌舞伎で劇のオープニングで坊主が登場し「聞いたか聞いたか、」と噂話の形を借りて、物語のあらましを話した後、場面転換して芝居が始まることに由来している。

 つまり、複雑な人間関係や心の揺れ動き,物語の背景などめんどうなことを登場人物にしゃべらせてセリフで説明してすましてしまうことを言っている。
 昔からシナリオ教育で使われる有名な例を挙げてみよう。
 恋人同士とおぼしきカップルが、喫茶店でコーヒーを飲もうというシーン。彼らの関係を説明するためにどうするか?

 まずアマチュアの書いた会話。

 男「分かれてから2年たったよね」

 プロのシナリオライターの場合。

 女が男のカップに砂糖を入れようとして、
 「今でも二つだった?」

 この違いがわかるだろうか。「今でも二つだった?」と聞くことで、かつてつきあっていたけど、しばらく離れていたことがわかるようになっている。これが今現在つきあっているカップルなら、なにも言わずに砂糖を入れるし、初対面なら「砂糖はおいくつ」と聞かせればいい。
 つまり、極力「説明的なセリフを書かない」ということなのだ。

 以前このBLOGで、どうしても急いでストーリーを進めたいとき描写ではなく説明ですませてしまうという、若い頃の私自身の悪い癖のことを書き、「説明に逃げずに描写せよ」という教訓を自戒を込めて書いた。同様に、めんどうな説明や描写をしたくなくて、登場人物の複雑な心の動きを、セリフで語らせてしまうことがある。

 登場人物が悲しいときに、「僕は悲しいんだ」と語らせてしまうほど情けない脚本はない。小説も同様だ。考えても見てほしい。自分が本当に悲しいとき、それを言葉にして人に言ったり、叫んだりするだろうか。膝を抱えて畳の目を数えたり、賑やかな町の雑踏すら疎ましく感じるのではないだろうか。
 それを描写し語らせてほしい。

 やはり以前このBLOGで書いたが、ユーミンは、名曲「海を見ていた午後」で、別れた恋人を回想する寂寥感と懐かしさを、「寂しい」という言葉にせず、そのかわりに、窓にかざしたグラス越しに「ソーダ水の中を貨物船が通る」と描写するのである。
 これこそ小説的表現だと思う。

 

(2015年5月3日(日) 13:45)

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