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昔の原稿を読んで気づいたこと

 小説を書き始めて最初の5年間ほど、私は原稿用紙に書いていた。まだ、パソコンはおろかワープロ専用機すら登場していなかったからである。当然、そのころの作品はデジタルデータではない。読み返すこともなかったのであるが、先日、当時の原稿が出てきた。ハードボイルドスタイルの探偵小説である。
 最近知り合いになり、私の作品の熱心な読者になっていただいた方がいるのだが、その方が滅法ハードボイルド小説が好き(ハメットやチャンドラーを原語で読むぐらい好き)なので、「僕も大好きで、小説を書き出すきっかけになったぐらいです」と言って、その若書きの作品を読んでもらった。
 コンテストでは二次予選落ちしたその作品が、意外や好評で、「面白いですよ、ぜひ出してくださいよ」と言われた。自分でも読み返して「粗い点があるけど悪くはない」と感じたので、まずはデータ化しておこうと、入力し始めたのだが、タイプしているうちに直しを入れながら、結局リメイクしている自分がいた。

 読み返して、当時は気づかなかった自分の欠点がよくわかる。今回は、少し長くなるが、それに関して書こうと思う。

 若い頃の私の欠点は、どんどんとストーリーを進めたくて、しっかりと描写しなくてはいけない部分を、簡単な説明で逃げているところである。

 例を上げてみよう。行方不明の女を捜す探偵が、あるマンションの住人を訪ねるシーンである。

 まずは26歳の私が書いたシーン。

 一階の郵便受でルームナンバーを確認した上でエレベーターに乗る。ペンキの剥げた壁面に、釘でひっかいたような落書きが無数にあった。ほとんどが性的なもので、ところどころに「ヤクザ出て行け」と言う文字が書いてある。ここは安アパートではない。しかし、精神的スラム街であることは確かだった。

 次が、現在の私が書き直したもの。

 一階の郵便受でルームナンバーを確認してエレベーターホールに向かう。ちょうど降りてきたエレベーターが開くと、だらしなくジャージを着た若い女が両手にゴミ袋をぶら下げて出てきた。欠伸をしながらビーチサンダルを引きずるようにして歩いている。起き抜けのホステスだろう。
 女と入れ違いにエレベーターに乗り込むと、八階のボタンを押した。ところどころペンキの剥げた壁面に、釘でひっかいたような落書きが無数にある。ほとんどが性的なもので、ところどころに、やくざ出て行け、というような文字が書いてある。ここは安アパートではない。しかし、精神的スラム街であることは確かだった。


 比較すると、描写を書き込んだ方がよくマンションの様子がわかるよね。飲み屋街に隣接し、水商売関係の住人や。暴力団関係の住人が集まって荒みきったマンション。また、それを見る探偵の皮肉で醒めた目線も併せて感じさせるようになっていて、探偵の性格も読者には伝わるわけだ。

 自分の欠点は、なかなか自分では気づかない。
 自分ではわかっているつもりの作品世界が、本当に読者に伝わっているか?
 私は、小説修行仲間の指摘で気づくことができた。

 どうして私の作品はいつも予選通過どまりなのだろう、とお悩みの方は、一度無料体験で作品を拝見させていただきたい。自分では気づかなかった欠点がわかるかもしれない。

 どれだけストーリーを進めたくても、我慢してしっかりと描写しなければならない。今回の教訓は、「説明に逃げずに描写せよ」ってところかな。

 

(2014年10月11日(土) 11:43)

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