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官能小説というジャンル 2

前回に引き続き、官能小説に関して語ろう。

 私が初めて読んだ官能小説は、高校教師をしていた父親の本棚から拝借した、ジョン・クレランドの「ファニー・ヒルで、検閲問題の歴史とともにも語られる作品である。
中学生の頃に読んだのだが、同じ頃、SM雑誌を読んでいた同級生がいて、彼は大人になってコピーライターになった。私は古典ポルノを読んで、大人になって作家を志したわけで、やはり最初の作品は人の生涯を決定するのかも。

 この作品は別名「ある遊女の回想記」と言われるように、高級娼婦が主人公。必然的にセックスシーンが登場する。しかも、その相手となる登場人物を描きながら、当時の社会を風刺し、なおかつ主人公を通して女性の快楽をも描いたというところが近代的なのである。また、主人公の遊女が文学などに精通したインテリだったのも魅力である。

 官能小説の第一の要素は、自然に必然的に性愛描写を出すということ。そのための工夫の例を思いつくままに書いてみよう。

・主人公を遊女にする
・主人公は、宝の隠し場所を記した入れ墨をした女を捜しているが、その入れ墨のある場所は陰部である。
・主人公は悪魔に呪いをかけられ、毎日セックスをしなければ死んでしまう

 といった具合に、何らかの目的で、入れ替わり立ち替わりセックスをしなければならないような舞台設定を作るわけである。それが丁寧であればあるほど、読者はその世界に没入して楽しめるのである。

 私の作品「1988獣の歌」では、主人公は人間の心に寄生する形のない生命体である。ただ、同じ人間に長く寄生していると、その宿主の心に攻撃され、その宿主のパーソナリティーの一つとして固定化され消滅してしまう。そのため、定期的に別の人間に移動して宿主を変えねばならない。その手段は、セックスだ。宿主とセックスをしている相手が絶頂感に到達したとき、心から心に移動ができる。この設定にして、入れ代わり立ち替わりセックスをする必然性を作ったわけだ。同時に、記憶を失った主人公の「けもの」が自分が何かを調べていくのがもう一つのストーリーである。

 さて、性の快感とは肉体的快感だけではない。むしろ、心の部分が大きい。嫉妬、羨望、支配欲、喪失感、そういった心の動きを併せて描写・表現できなければ優れた作品にはなり得ない。

 重松清の「なぎさの媚薬」(週間ポスト連載)では、不思議な娼婦「なぎさ」が登場する。彼女は渋谷近辺に現れて、セックスを通して、お客の思い出の中の女との性交を体験させる。その女たちとは、好きだとも言えなかった初恋の少女であったり、教育実習できていた年上の大学生であったりという、誰もが心に持っている女性である。
 なぎさが狂言回しとして機能するわけで、お客はいずれも現在の状況に悩みを抱えているが、思い出の女性との再会と情交を通して、心に何らかの決着をつけるというのが各エピソードの構成である。そして、最終巻では、不思議な娼婦・なぎさの秘密にせまるというもう一つのストーリーが明かされる。
 この心の描写と構成の見事なこと。「なぎさの媚薬」が凡百のポルノと一線を画する点がここなのだ。

 トイレの落書きと、エロティックなアートとは一目でその違いがわかる。同様に、官能小説、性愛文学もその優劣は一読で明らかになる。作家を志す者は、それだけの気合いで挑んでほしい。

 

(2014年8月31日(日) 16:15)

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