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憲法判例 長沼事件(前文の法的性質/「平和的生存権」を理由として裁判所に救済を求めることができるか?)

◆札幌高裁昭和51年8月5日判決  昭和48年(行コ)第2号 保安林解除処分取消請求控訴事件
【第一審】    昭和48年9月7日 札幌地方裁判所
【上告審】    昭和57年9月9日 最高裁判所

 ・・・被控訴人(地元住民)らは、本件(指定林の)解除処分は航空自衛隊第三高射群基地の建設を目的とするものであるから、右基地周辺の住民である被控訴人らは、いわゆる基地公害のほか一朝有事の際には直接の攻撃目標とされ、憲法前文等に根拠を有する「平和のうちに生存する権利」を具体的に侵害されるおそれがあるとして、・・・右平和的生存権の侵害を理由としても、本件解除処分の取消しを求める法律上の利益を有するものであると主張する。

 憲法前文は、その形式上憲法典の一部であつて、その内容は主権の所在、政体の形態並びに国政の運用に関する平和主義、自由主義、人権尊重主義等を定めているのであるから法的性質を有するものといわなければならない。(が)・・・国政の運用に関する主義原則は、規定の内容たる事項の性質として、また規定の形式の相違において、その法的性質には右と異なるものがあるといわなければならない。
 ・・・(前文)第二、第三項の規定は、これら政治方針がわが国の政治の運営を目的的に規制するという意味では法的効力を有するといい得るにしても、国民主権代表制民主制と異なり、理念としての平和の内容については、これを具体的かつ特定的に規定しているわけではなく、前記第二、第三項を受けるとみられる第四項の規定に照しても、右平和は崇高な理念ないし目的としての概念にとどまるものであることが明らかであつて、前文中に定める「平和のうちに生存する権利」も裁判規範として、なんら現実的、個別的内容をもつものとして具体化されているものではないというほかないものである。


【解説】
 自衛隊の地対空ミサイル基地建設に反対する地域住民が、基地建設のために保安林の指定を解除した処分の取り消しを求めて争った(行政訴訟)事件。
 この訴えの中で「訴えの利益」を基礎づけるために主張したのが憲法前文の「平和的生存権」である。一審判決では、平和的生存権を訴えの利益の根拠として認めたが、二審判決はこれを否定した(上記判例)。

 憲法前文の法的性格については、法規範性を有すると解されている。すなわち、本文と同じく憲法の一部をなし(1)憲法改正手続きによらなければ改正できず(2)最高法規として法律、命令等を拘束し、憲法の各条項を解釈する基準にはなりうる。その一方で、裁判規範性を有するかについては、肯定説、否定説が存在しており、否定説が通説である。すなわち、前文の規定は抽象的な原理の宣言にとどまり具体性に欠けるため、前文を直接根拠として裁判所に救済を求めることはできないと一般的には解されている。
 この点で問題となったのが前文二項の「平和のうちに生存する権利を有する」という文章に示されている「平和的生存権」であり、これについて争われたのが、上記「長沼事件」である。

 尚、最高裁は(狭義の)訴えの利益がないとして上告を棄却している(最一小判昭57・9・9、民集36・9・1679)。訴えの利益については、行政事件訴訟法で学ぶ重要事項で頻出。

 

(2016年4月6日(水) 0:26)

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