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追悼 ヴァイツゼッカー元大統領

 1月はまったく悲惨な月だった。パリでの連続銃乱射事件、ウクライナ紛争の激化、そしてイスラーム過激派ISによる二人の日本人の殺害。二月に入っても悲劇は終わらない。先週末(14日)コペンハーゲンで、パリの事件のコピーと思われる銃撃事件が起こった。

 欧州は、世界は、再び不寛容な時代、敵対する時代、戦争の時代へと向かいつつあるのだろうか。

 そんな時代の到来を暗示するかのように、1月31日、戦後欧州政治の良心とも言うべきリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー元ドイツ大統領が亡くなった。
若い世代にヴァイツゼッカーといってもピンとこないかも知れない。そもそもドイツの連邦大統領(Bundespraesident)というのは政治的実権はないから、連邦首相(Bundeskanzler)とは違って、誰であろうとその名を記憶する者は、ドイツ人でない限りさして多くはないだろう。しかしヴァイツゼッカーは別。ナチス・ドイツが起こした先の戦争に真摯に向きあう彼の姿勢は戦後ドイツの評価を高め、そして東西ドイツの融和へ向けた彼の努力は、後のベルリンの壁崩壊、統一へと結実することになった。ドイツのみならず欧州全体においてヴァイツゼッカーの果たした役割は大きい。

 そして、彼の名を世界的に有名にしたのは、1985年に戦後40年を記念してなされた彼の演説だ。次の一節を聞いたことがある人は多いのではないか。
「過去に目を閉ざす者は、結局の所現在に盲目となる。」(Wer aber vor der Vergangenheit die Augen verschliesst, wird blind fuer die Gegenwart.)
ついでにこれに続く文も挙げておこう。
「非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすい。」(Wer sich der Unmenschlichkeit nicht erinnern will, der wird wieder anfaellig fuer neue Ansteckungsgefahren.)

 ドイツ人は先の戦争でナチス・ドイツが何をしたか、目をそらさず直視しなければならない。そのことによってのみ被害者との和解(Versoehnung)が可能となる。過去の過ち、失敗は思い出したくない、封印したいというのが人情だけども、あえてそれに向きあうことをしない限り、他者との共生、平和は訪れない。それどころか同じ過ちを犯してしまうだろう、ということだ。

 この演説はその内容のみならず、ドイツ語の格調高さでも評価が高い。かといって、決して難解な文章ではない(講演だからね)。中級とはいわず、初級ドイツ語学習者にとっても読むことは可能だ。一読をお勧めします。ちなみに翻訳は、ネットで読むことができるが、『岩波ブックレットNo. 767 新版 荒れ野の40年 ヴァイツゼッカー大統領ドイツ終戦40周年記念演説』を手にしてほしい。註や解説は大いに参考になります。


 

(2015年2月18日(水) 12:21)

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若林明彦 (ドイツ語)

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